
海外に銀行口座や不動産を持っている方が増え、
「海外の財産の相続手続きが全く進まない」
「書類を何度出しても受け付けてくれない」
というご相談が非常に増えています。
国内相続と決定的に違う点は、
“海外の財産は、海外のルールでしか動かせない”
ということです。
日本で遺言や遺産分割協議書を整えても、
それだけで手続きが完了する国はほとんどありません。
ここでは、海外相続で実際に必要となる手続き・国別の特徴・注意点を、
専門家としての実務経験をふまえて詳しく解説します。
この記事の監修/取材協力

Global Tax office/GEPAS inc. 代表:金田一喜代美:税理士、CFP、MBA
中央大学法学部・慶應義塾商学研究科卒。
監査法人トーマツにて上場準備部署配属にて多くの企業の上場に携わる。同時に
上場企業の監査役等を歴職しながら中小企業、大企業の国内税務業務に20年以上従事。その後、大手税理士事務所の国際資産税準備室を経て、国際資産コンサルGEPASinc.を設立。多くの国々の案件を手掛け、多くの相続人の課題を解決してきている。米国を含む主要国を網羅した「国際相続・贈与がざっくりわかる!」「海外資産の海外法務・税務の基礎」その他執筆多数。シンガポール三田会、宇宙三田会、和僑会会員。
海外手続きが難しい理由
国ごとに法律・銀行ルール・公証制度が違う
海外銀行の相続手続きには、その国・その銀行のルールが絶対的に優先します。
同じ「相続手続き」でも、
- フランスの公証制度
- アメリカの州裁判所(Probate)
- シンガポールの認証制度
- 香港独自のEstate Office
など、国によって手続き窓口も、必要書類も、提出形式も全く異なります。
そのため、「日本の相続書類を出せば手続きできるだろう」
という感覚では、ほぼ確実に手続きが止まります。
日本の書類はそのまま海外で使えない
さらに、海外では日本の書類はそのままでは認められません。
必須となりやすいのが次の3つです。
アポスティーユ
日本の書類を「外国でも正式な公文書として認めてもらう」ための国際認証。
公証(Notary Public)
本人が間違いなく署名したこと、内容が信用できる文書であることを証明。
翻訳(Certified Translation)
日本語の書類は読めないため、ネイティブ翻訳+公証が必要。
海外銀行・不動産の手続きでは、
これらの認証が1つでも不足すると、手続きの入り口で拒否されます。
相続人が海外在住のケースではさらに複雑
相続人が海外に住んでいる場合、
相続書類の署名を現地公証人で行う必要が出てきます。
- 郵送で署名しただけでは受け付けられない
- 現地Notaryのサインと印が必須
- 場合によっては大使館での認証が必要
など、国際相続は「相続人がどこに住んでいるか」でも手続きが変わるのです。
海外口座・海外不動産の手続き「共通フロー」(実務版)
海外の手続きは国別で全く異なりますが、
多くの国で共通している「実務フロー」を整理します。
日本側で必要書類を揃える
- 戸籍(出生〜死亡までの連続)
- 死亡診断書・死亡届
- 住民票や除票
- 遺言書または遺産分割協議書
- 相続人全員のパスポート
日本では当然の書類でも、海外では「そのままでは無効」とされます。
日本の書類にアポスティーユや公証を付ける
特に銀行は、認証が無い書類を受け取りません。
- 公証役場で公証→外務省でアポスティーユ
- 戸籍や住民票のアポスティーユ
- サイン証明の公証
1枚の書類でも「公証→外務省→翻訳→翻訳公証→提出」という4段階が必要なこともあります。
すべての書類を翻訳する
銀行・裁判所が日本語を理解できないため、
翻訳+翻訳証明付きの書類が必要になります。
翻訳が原因で差し戻されるケースは非常に多いです。
現地の法律に沿って手続き開始
ここで国ごとに大きく分岐します。
- アメリカ:州裁判所でProbate開始
- EU:公証人が中心となって手続きを進める
- アジア:銀行ごとの相続部署に提出し審査
つまり、
手続きの最終窓口が国によって全く違うのです。
手続きの完了(かなり時間がかかる)
相続人全員の署名の一致や各種認証を確認し終えてから、ようやく
- 銀行口座の解約
- 残高送金
- 残高送金
の手続きに進みます。
実務上、半年〜18ヶ月かかることも珍しくありません。
国別・地域別の相続手続きの特徴(詳細)
アメリカ(USA)/州裁判所の手続き“Probate”が中心
アメリカは「州ごとに相続法が違う」ため、
同じアメリカでも手続きの負担がまったく違います。
- 遺産の種類や金額によっては裁判所での手続き(Probate)が必須
- 州ごとに必要書類が違う
- 銀行が求める死亡証明が多い(原本10〜20枚が必要なことも)
- 相続人の署名は現地Notaryにて認証が必要
- 不動産は必ず「その不動産がある州の法律」で処理
- 日本の遺言が州法の形式と合わず無効判断
- Probate の完了に 6〜12ヶ月以上かかる
- 相続人のサインがアメリカ式でないと再提出
EU諸国(フランス、ドイツ、スペインなど)/“居住地”が優先
EUでは「EU相続規則」により、亡くなった人がどこに住んでいたかが最重要です。
現地の公証人(Notaire)が手続きを主導します。
- 遺言に「日本法を適用」と書かないと自動的に現地法に
- 公証人による正式な手続きが必要
- EU相続証明書(ECS)を求められることがある
- 戸籍・遺産分割協議書は翻訳+アポスティーユ必須
- 遺言に準拠法が書かれておらず、現地法が適用されてしまう
- 公証人とのやり取りが長期化(半年〜1年)
- 書類の翻訳に不備があり受理されない
アジア(シンガポール・香港・タイ・マレーシアなど)
アジア地域では、不動産や口座の手続きが「各国のローカル制度」に大きく依存します。
- 日本の書類はほぼ100%翻訳が必要
- 公証・アポスティーユの二重認証が通常
- 不動産は例外なく“現地の登記制度”に従う
- 銀行独自のチェックが厳しい(特にシンガポール・香港)
- 各国で書類の有効期限(3〜6ヶ月)が設定されている
- 相続人全員が海外にサインしに行けず、手続きが止まる
- 銀行のフォームが年単位で更新され、何度もやり直し
海外銀行口座の実務で「特に注意すべきポイント」
海外銀行の相続手続きは、国内の銀行より はるかに厳格 です。
必ず押さえておきたい点
日本語書類はほぼ100%不可
読み取れないため“翻訳+認証”が必須。
銀行独自の相続フォームがある
各銀行が独自の相続パッケージを作成しており、
それに沿った書類でなければ受理してくれません。
相続人全員のサインが必要
世界各地に住んでいる場合は郵送→認証の往復が必要。
口座凍結の解除に時間がかかる
「提出完了後に審査開始」という国が多く、
審査だけで1〜4ヶ月かかる場合も。
海外不動産の名義変更で必ず知っておくべきこと
海外不動産は、日本の書類では一切動きません。
海外に不動産を所有している場合、その名義変更の際には、日本国内の相続書類や慣れ親しんだ手続きがそのまま通用しないという点をまず理解しておく必要があります。
特に重要なのが、「不動産は、その国の法律に従ってしか動かせない」 という原則です。
たとえば、フランスに不動産があればフランスの法律、タイに不動産があればタイの法律、アメリカに不動産があればその州の法律が適用されます。
各国の登記制度は独立しており、日本の相続制度とはまったく別世界ですので、これは例外が一切ない“絶対ルール”です。
そのため、日本で作成した遺産分割協議書を持って行っても、そのまま現地の登記局で受け付けてもらえるとは限りません。むしろ、多くの場合、現地の登記要件に合わせた別書類が求められます。書式・内容・証明の形式など、国ごとに細かい基準が異なるため、日本基準で作った書類が通用しないのは珍しいことではありません。
さらに、海外不動産に関する税金や登録費用も国によって大きく違います。
日本よりも相続税や取得税が高い国もあれば、逆に税金が発生しない国もあります。ただし、手数料や登記費用は高額になりやすく、国によっては「相続手続きに必要な行政手数料だけで数十万円以上」というケースもあります。
こうした事情から、海外不動産の名義変更では、現地の制度に精通した弁護士や公証人の力が不可欠です。
特に東南アジアやアメリカなど、法制度が複雑だったり、州ごとに手続きが異なる地域では、専門家を通さずに手続きを完了させるのはほぼ不可能といって良いレベルです。書類の形式・認証方法・翻訳の基準・法定相続制度の違いなど、細かいポイントを一つずつクリアしていかなければならないためです。
つまり海外不動産の名義変更は、
「日本の相続の延長線上ではなく、完全に“その国の相続手続き”として向き合う必要がある」
という点が最大のポイントです。
この前提を理解して準備しておけば、手続きの停滞を大きく防ぐことができます。
“所在国の法律”が絶対ルール
フランスの不動産はフランス法、
タイの不動産はタイ法、
アメリカの不動産はその州法。
これは100%の絶対原則です。
日本の遺産分割協議書では登記できないことが多い
現地の登記要件に沿った書類が必要。
相続税・登録費用も国ごとに違う
手数料や税金が日本より高額な国もあります。
現地の弁護士や公証人の介入がほぼ必須
特に東南アジアやアメリカでは専門家なしでは進みません。
実務で頻発する“5つのトラブル”【内容拡大版】
海外の相続手続きを進める際には、日本では想像できないようなトラブルが次々と発生します。
その中でも特に多いのが、書類の不備や形式の違い、提出期限の問題 によって手続きが止まってしまうケースです。
まず非常に多いのが、「書類が1つでも不足していて手続きが進まない」というものです。
海外の銀行や登記局は提出書類に対して非常に厳格で、アポスティーユや公証の付け忘れがあると、どんなに少額の資産であっても一切受け付けてくれません。
特にアポスティーユの付け忘れは実務で最も多いミスの一つです。
次に、相続人の署名に関する問題もよく起こります。
日本式の署名の書き方(姓・名の順番や漢字の筆跡)と、海外で求められる署名方法が異なることがあり、銀行側が「本人確認ができない」として不受理にする場合があります。
場合によっては、筆跡の違いまで指摘されることがあり、「日本の感覚では理解しにくい理由で差し戻される」ことも珍しくありません。
また、海外の銀行や金融機関は年々独自のルールを厳格化しています。
マネーロンダリング対策や国際的な金融規制の強化に伴い、提出すべき書類は以前よりも増え続けています。
その結果、相続手続きに必要な書類が数年前と比べても大幅に増え、「こんな書類まで?」と思うような資料を要求されることもあります。
さらに、手続きの途中で「古い書類が必要」と言われてしまうケースもあります。
日本ではすでに廃棄してしまっていることが多い10年以上前の登記書類や在留記録、過去の住所証明など、こちらでも予期しなかった書類の提出を求められることがあります。
古い書類が揃わないとその先に進めないため、時間がかかる要因となります。
最後に、海外ならではの大きな問題が「書類の有効期限切れ」です。
多くの国では、公的書類には3〜6ヶ月の有効期限が設けられているため、時間をかけて準備した書類でも、手続きが長引くと期限切れとなり、最初からすべてやり直しになることがあります。
手続きが長期化しやすい国際相続では、この“書類の期限切れ”は実務上とてもよく起こるトラブルです。
このように、海外相続では日本国内では考えられないような理由で手続きが止まってしまうことがあります。
これらのトラブルは事前に正しい手続きを理解し、必要書類を早めに整えておくことで、かなりの部分を回避できます。
- 書類が1つでも不足していて手続きが進まない
→ アポスティーユの付け忘れが非常に多い。 - 相続人の署名が日本式で不受理
→ 姓名の順番・筆跡・書体の違いを指摘されることも。 - 銀行の独自ルールが年々厳格化している
→ 法令・コンプライアンスへの対応で提出書類が増えている。 - 保管されていない古い書類が必要と言われる
→ 10年以上前の登記書類、在留記録など。 - 手続きに時間がかかり“書類の有効期限切れ”で最初からやり直し
→ 海外では書類の有効期限が3〜6ヶ月ということが多い。
まとめ:海外手続きは“情報と書類の戦い”
海外口座・海外不動産の相続手続きは、
国ごとの違いが非常に大きく、国内相続と比べて数倍の手間がかかるのが普通です。
しかし、
- 必要書類を早めに準備する
- 国ごとの手続きを理解する
- 現地の専門家と連携する
ことで、手続きの停滞を最小限にできます。
国際相続の中でも、海外口座・海外不動産は“最も時間がかかる領域” ですので、
早めの対応が家族の負担を大きく減らします。

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