
〜法律・税金だけでは防げない「実務の落とし穴」編〜
国際相続で起きるトラブルは、必ずしも法律や税金の知識不足だけが原因ではありません。
実務の現場で見ていると、むしろ
「日常的で、誰も意識していないところ」 に問題の大半が潜んでいます。
たとえば、
- 海外口座のパスワードを家族が知らない、
- 不動産の所在国の制度が分からない、
- 相続人どうしの連絡が取れない、
- 国ごとに手続きの順番がまったく違う──。
こうした“ほんの小さなズレ”が積み重なることで、
手続き全体が数ヶ月、時には数年ストップすることもあります。
ここでは、これまでの記事では触れてこなかった「実務の盲点」だけに絞り、
国際相続を本当にスムーズに進めるためのポイントを解説します。
この記事の監修/取材協力

Global Tax office/GEPAS inc. 代表:金田一喜代美:税理士、CFP、MBA
中央大学法学部・慶應義塾商学研究科卒。
監査法人トーマツにて上場準備部署配属にて多くの企業の上場に携わる。同時に
上場企業の監査役等を歴職しながら中小企業、大企業の国内税務業務に20年以上従事。その後、大手税理士事務所の国際資産税準備室を経て、国際資産コンサルGEPASinc.を設立。多くの国々の案件を手掛け、多くの相続人の課題を解決してきている。米国を含む主要国を網羅した「国際相続・贈与がざっくりわかる!」「海外資産の海外法務・税務の基礎」その他執筆多数。シンガポール三田会、宇宙三田会、和僑会会員。

ポイント①:海外資産は“存在を家族が把握していない”のが最大のリスク
国際相続の失敗の約8割は、
「そもそも海外資産の存在を家族が知らなかった」
ここから始まります。
海外口座や海外投資、暗号資産などは、本人がすべて管理しているケースがほとんどで、家族がその存在を知っていることはむしろ稀です。
特に、以下のような財産は“見つけにくい資産”です。
- 海外銀行口座(現地通貨・USD・外貨口座)
- 証券口座(米国株・ETF・FX・CFD)
- 暗号資産ウォレット(秘密鍵が分からないと取引不可)
- 海外不動産(登記情報が日本から検索できない)
- 海外保険(連絡先が不明だと手続き不能)
- 海外法人・LLC(書類がなければ存在すら分からない)
家族が存在を知らない場合、
相続は「何を探すか」からのスタートになります。
そうすると、
- 相続人が調査できない
- 取引所や銀行からの連絡も届かない
- 凍結されたまま期限切れ
- 結果的に“アクセス不能”で財産が失われる
こうしたケースは実際に起きています。
- 海外資産の「共有リスト」を作成し、年1回更新して家族に伝える。
(口座番号、保有額、ログイン方法、現地担当者の連絡先など)
ポイント②:デジタル資産(暗号資産・FX・アプリ内資産)の扱いを決めておく
国際相続の世界では、今最も増えているトラブルが
「デジタル資産の相続ができない」という問題です。
暗号資産や海外FX口座は、
パスワード・秘密鍵・2段階認証がすべて。
これらを家族が知らないと、
中身が何億円であっても取り出すことはできません。
しかも海外の暗号資産取引所は、日本の相続法とは無関係です。
「相続人からの問い合わせは受け付けない」という取引所も実際にあります。
また、近年は
- アプリ内のポイント
- 仮想ゲーム内の資産
- 海外株式アプリ(Robinhood など)
といった“新しい資産”も増えています。
- 「資産の場所」+「ログイン情報」をメモ化し、遺言とは別に安全に保管しておく。
(遺言にパスワードを書くのは危険なのでNG)
ポイント③:家族が世界に散らばっていると、“署名・公証の段取り”が最重要
相続人が海外各地に住んでいるケースでは、
書類に署名してもらうだけで数週間〜数か月かかります。
例えば、
- 長男はカナダ
- 次男はオーストラリア
- 妻は日本
- 一部相続人はヨーロッパ
という場合、署名のための書類が
世界を一周するように郵送されることもあります。
さらに国によって署名方法も違い、
“現地の公証(Notary)が必須”という銀行も多いのです。
そのため、署名の段取りがうまくいかないと、
手続きが全体的に止まり、
書類が期限切れになることもあります。
- 相続人がどこに住んでいるかを把握し、署名スケジュールを事前に作成する。
ポイント④:日本と海外の「手続きの順番」を間違えると、すべてがやり直しに
相続人の多くが勘違いしているのが、
「日本の相続が終わってから海外の相続をやる」
という考え方です。
実際には、国によって必要な順番がバラバラです。
アメリカ(州による)
- Probate(裁判所手続き)が先
- 日本の書類は後
アジア圏(シンガポール・香港・タイなど)
- 日本の確定が先
- その後、現地の名義変更
EU
- 遺言・証明書類を併行して作業
- 確定の順番も国によって異なる
この「順番のズレ」に気づかないまま進めると、
すべて最初からやり直しになったり、
すでに作った書類が無効になることもあります。
- 最初に“国別手続きフローチャート”を作成し、順番を確定してから動く。
ポイント⑤:メール・郵送・翻訳…国際的なやり取りは想像以上に時間がかかる
国ごとに仕事のスピード感がまったく違います。
- 日本:即日〜数日で返信
- アメリカ:1週間
- ヨーロッパ:1〜3週間
- アジア:担当者変更や連絡漏れも日常的
郵送についてはもっと時間がかかります。
- 日本 → アメリカ:1〜2週間
- 日本 → アジア:数日〜1週間
- 海外 → 海外:2〜4週間
これに加えて、
翻訳 → 公証 → アポスティーユ → 郵送
という流れが重なるため、
書類の往復だけで数ヶ月経つことは珍しくありません。
- 翻訳・認証は早めに行い、スケジュールに余裕を持つ。
ポイント⑥:法律より大事なのは“家族の合意”という現実的問題
国際相続では、法律や税金の問題よりも
「家族の意見がまとまらない」
ということで手続きが止まるケースが非常に多いです。
特に、
- 再婚家庭
- 国際結婚
- 前妻・前夫との子
- 海外在住の家族の価値観の違い
- 宗教・文化的背景の違い
こうした要因が絡むと、合意形成は想像以上に難航します。
法律的には正しくても、“気持ちの溝”が埋まらないために
手続きが何年も動かないこともあります。
- 意思確認書やメモリアルレターなど、法律以外の「想いの文書」が意外に役立つ。
ポイント⑦:国際相続では「専門家の選び方」が結果を左右する
日本の相続に強い専門家でも、
国際相続には対応できないケースが多いのが現実です。
国際相続では下記の“3つの視点”が必要です。
- 日本側の相続・税務
- 海外現地の法務・登記
- 海外現地の法務・登記
この3つがそろって初めて、
書類が止まらず、期限も切れず、スムーズに進みます。
どれか1つでも欠けると、
- 書類不備
- 再提出
- 書類の期限切れ
- 手続きの無効化
という流れに陥りがちです。
- 日本×海外を両方カバーできる専門家チームに依頼するのが最も成功率が高い。
まとめ:国際相続は「準備の差」がそのまま結果になる
国際相続で成功するかどうかは、
法律や税金の知識だけでは決まりません。
実際には、
海外資産の管理・家族の連絡・手続きの順番・翻訳・郵送・文化差
などの“見えない要素”が大きく影響します。
つまり国際相続は、
法務 × 税務 × 実務 × コミュニケーション
が重なる“総合格闘技”です。
そして最大のポイントは、
「早く動き始めた人ほど、トラブルを回避できる」というシンプルな事実です。
今日この記事を読んだみなさまは、すでに国際相続の成功に一歩近づいています。
あとは、必要な準備を一つずつ始めるだけです。

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