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この記事の監修/取材協力

Global Tax office/GEPAS inc. 代表:金田一喜代美:税理士、CFP、MBA
中央大学法学部・慶應義塾商学研究科卒。
監査法人トーマツにて上場準備部署配属にて多くの企業の上場に携わる。同時に
上場企業の監査役等を歴職しながら中小企業、大企業の国内税務業務に20年以上従事。その後、大手税理士事務所の国際資産税準備室を経て、国際資産コンサルGEPASinc.を設立。多くの国々の案件を手掛け、多くの相続人の課題を解決してきている。米国を含む主要国を網羅した「国際相続・贈与がざっくりわかる!」「海外資産の海外法務・税務の基礎」その他執筆多数。シンガポール三田会、宇宙三田会、和僑会会員。
なぜ国際相続では銀行が急に“厳格化”するのでしょうか?
「この書類では受け取れません」
「追加で本人確認が必要です」
「資金の出所(Source of Funds)を説明してください」
国際相続を経験した人なら、海外銀行からこうした言葉を何度も聞いたことがあるはずです。
しかし、これは
あなたが怪しいからではありません。
理由ははっきりしていて、
世界中の金融機関が「AML(マネーロンダリング対策)」と「KYC(顧客確認)を年々強化している」からです。
この“AML・KYCの壁”を理解しないまま書類を出しても、
何度も差し戻され、半年以上手続きが止まることになります。
AML・KYCとは何でしょうか?
AML(Anti-Money Laundering)=マネーロンダリング対策
- 犯罪資金の洗浄を防ぐための国際的な規制
- 各国銀行は厳格なチェック義務が課されている
KYC(Know Your Customer)=顧客確認
- 「その人が本当に本人か?」
- 「不正な資金ではないか?」
- 「どんな関係性の相続人なのか?」
これを銀行が確認しないと、銀行自身が多額の罰金や行政処分の対象になります。
つまり銀行側には
「慎重すぎるほど慎重にチェックする必要がある」という強いプレッシャーが常にあるのです。
相続手続きは“銀行から見ればリスクの塊”である!
国際相続は、銀行にとっては
- 本人が亡くなっている
- 別人が出金を依頼してくる
- 海外に住んでいる
- 大きな金額の移動が発生する
- 書類の真偽が確認しにくい
という、リスクの塊です。
銀行側は「このお金は本当に正当な相続か?」を証明するため、
必要以上に厳格な書類チェックを行っているという背景があります。
AML・KYCでよく止まる場面と理由【ケース別】
ケース①:相続人の身元確認書類が不十分
- パスポートの署名が違う
- 住所が最新でない
- KYC書類が揃っていない
海外銀行は「本人確認の確実性」を非常に重視するため、
ほんの少しの不一致でも差し戻します。
ケース②:被相続人の“資金の出所(Source of Funds)”の確認
意外と知られていませんが、
銀行は亡くなった人の財産についても
「このお金がどこから来たか」をチェックします。
- 海外給与?
- 不動産収入?
- 投資?
- 事業収益?
これを確認するために10年以上前の資料を求められることもあります。
ケース③:海外からの送金先(相続人の口座)が疑われる
相続人が海外にいる場合、銀行は
「送金先が安全か?」「制裁対象国ではないか?」
もチェックします。
そのため、
送金先銀行のKYC情報提出を求められることもあります。
ケース④:家族関係の証明不足
- 戸籍(日本)
- 誕生証明書(海外)
- 婚姻証明書
などが複雑に絡み合うため、家族関係が証明できずKYC不合格になることがあります。
ケース⑤:書類がすべて正しくても“説明不足”で止まる
AML・KYCは、「書類だけ」では通りません。
銀行担当者が理解できるように背景説明(Cover Letter)が必要になることが多いです。

AML・KYCの国別比較:アメリカ・EU・アジアで何が違うのでしょうか?
国際相続の現場で「銀行の対応が全然違う」と感じるのは、
じつは 各地域ごとにAML・KYCの考え方や運用がかなり違う からです。
ここでは、アメリカ・EU・アジアの3つのエリアに分けて、
相続手続きにどう影響するのか、実務目線で整理してみます。
アメリカ:罰則が非常に重い「超・慎重なチェック文化」
アメリカは、マネーロンダリング対策に関して世界で最も厳しい国の一つです。
銀行や証券会社などの金融機関は、
BSA・パトリオット法などの法律に基づいて非常に細かいAML・KYCチェックを義務付けられています。
そのため相続手続きでも、
- ちょっとした住所の不一致
- 署名の形の違い
- 相続人の身分証明の不足
- 資金の出所が説明できない
といった理由で、容赦なく「NG」「追加書類」と返されます。
- 相続人全員のパスポート・住所証明・サイン証明
- 被相続人の過去の収入や資産形成の説明(Source of Funds)
- 弁護士・会計士など第三者による証明書類
EU:共通ルール+各国運用という“二重構造”
EUもAML・KYC規制が非常に厳しい地域です。
EU指令(AML指令)に基づいて共通の枠組みがありますが、
実務の運用は各加盟国ごとに微妙に異なる のが特徴です。
- Beneficial Owner(実質的支配者)の登録制度
- 高額取引に対する強化された本人確認(EDD)
- 銀行が「ハイリスク」と判断した場合の“デ・リスキング”(口座解約)
など、制度としてはアメリカに近いレベルで強化されています。
- 公証人(Notaire)や弁護士がKYCに深く関与する国が多い
- 戸籍や協議書に加え、EU相続証明書や現地の公証書類を求められる
- 宗教・民族・居住地なども含めてリスク評価されることがある
アジア:国ごとの“ばらつき”が大きいエリア
アジアは、きれいに一括りにはできないエリア です。
- シンガポール・香港 → 国際金融センターとしてAML・KYCが非常に厳格
- タイ・マレーシア・インドネシアなど → 法制度が整備中で運用にムラがあることも
- 中国本土 → 外貨管理や送金規制が別の意味で厳しい
共通して言えるのは、
- 「国によって求められる書類・形式が全然違う」
- 「ルールが比較的頻繁に変わる」
という点です。
- 国によっては「本人が現地に来ないと手続きできない」ことも
- 銀行ごとに相続用の独自ルールやフォームが存在
- 担当者によって説明内容が変わることもある
ポイントですが、アジアでは、
「その国・その銀行・その担当者」単位で対応が変わる と思っておいた方が安全です。
最新情報を現地側で確認しながら進める必要があります。
国別AML・KYCの違いを踏まえた“実務アドバイス”
アメリカ
とにかく「厳しく見られている」前提で、身分証明・資金の出所・家族関係を細かく説明できるよう準備しておく。
EU
公証人がKYCに深く関与する国が多いので、
「公証人+銀行」という二段構えの手続きと理解して進める。
アジア
国ごとのばらつきが大きいので、「その国の最新実務」を現地専門家に必ず確認する。
こうして見てみると、
同じ“AML・KYC”という言葉でも、地域によって中身や運用のクセが大きく違う
ことが分かります。
国際相続のコンサルを行う上では、この地域ごとの違いを前提にして、
- どの国のどの資産から先に動かすか
- どの国のKYCが一番時間がかかりそうか
- どこに一番リソースを割くべきか
といった「戦略」を組み立てていくことが、とても重要になります。
【実務】AML・KYCをスムーズに通すための6つの鉄則です
鉄則① 相続書類は“全て英語で”+正式な翻訳(Certified)をつける
銀行は日本語書類を読めません。翻訳+翻訳者証明は必須。
鉄則② 相続人全員のKYCを早めに取得
- パスポート
- 住所証明
- 署名
- 現地公証
これを早期に揃えるだけで、手続き速度が大幅に上がります。
鉄則③ 被相続人の資金の出所を整理しておく
給与明細、旧銀行口座、投資記録など、「お金のルーツ」が説明できるとAMLに強くなります。
鉄則④ 銀行への提出書類+背景説明文(Cover Letter)を必ず添付
以下を明記するだけでKYCが通りやすくなります。
- 相続手続きの目的
- 家族関係
- 資産の内容
- 各書類の説明
- 日付の整合性
鉄則⑤ 送金先口座(相続人側)のKYCも整える
海外送金時のKYC強化に伴い、
相続人側の銀行情報も求められるようになっています。
鉄則⑥ 銀行とのやり取りは“証拠を残す”
- 受領確認(Acknowledgment)
- 提出日時
- 審査期限の確認
- 担当者名の記録
KYCは部署が変わりやすく、“言った・言わない”のトラブルが多いためです。
まとめ:国際相続の最大の壁は「法律」ではなく「銀行のAML」
国際相続を止めているものは、多くの場合、相続法ではありません。
本当の壁は、
- マネーロンダリング対策
- 顧客確認(KYC)
- 国際送金規制
- 反テロ資金対策
という “金融の国際ルール” です。
これを理解し、銀行が求める情報を正確に揃えれば、相続手続きは驚くほどスムーズに進みます。
そして何より、AML・KYCを理解している専門家に依頼することが、国際相続成功の最短ルートです。

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