
遺産相続において、家族間のトラブルを未然に防ぎ、自分の意思を確実に遺すために有効な手段が公正証書遺言です。
この記事では、公正証書遺言の基本概要から、必要な作成費用、具体的な作成の手順、税理士をはじめとする専門家に相談すべき理由まで解説します。
この記事の監修/取材協力

古尾谷 裕昭 税理士
相続専門の税理士法人(VSG相続税理士法人)の代表税理士。同事務所では、年間3,500件の相続税申告を行っており「99%税務調査が入ってこない」「税金を可能な限り安く」「親身に寄りそった対応」という品質で、元国税調査官を招き入れた体制のもとサービスを提供している。

三ツ本 純 税理士
相続専門の税理士(VSG相続税理士法人)。税理士業界に就職した後、10年以上相続税の専門税理士として活動、これまで600件以上の相続税申告に関わっている。横浜出身。書籍「令和3年度版 プロが教える! 失敗しない相続・贈与のすべて (COSMIC MOOK)」など
公正証書遺言とは?特徴と自筆証書遺言との違い
遺言書にはいくつか種類がありますが、なかでも公正証書遺言は安全性が高い方法のひとつとして広く利用されています。
まずはその特徴と、自身で執筆する自筆証書遺言との違いを整理しましょう。
公証人が作成する公文書としての強い効力
公正証書遺言は、裁判官や検察官、あるいは法律実務に長年携わってきた公証人が、遺言者本人の意思を直接聞き取って作成する公文書です。
法律のプロが関与して民法の規定に沿って作成されるため、形式不備による無効リスクが低い点が大きな強みです。
また、作成された原本は原則として公証役場で保管されるため、紛失や隠匿、他者による改ざん・偽造の心配が少なくなります。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較(メリット・デメリット)
自筆証書遺言は自分一人で手軽に作成でき、費用がほとんどかからないというメリットがあります。
しかし、形式的な要件を満たしていないことによる無効リスクや、遺言者の死後に家庭裁判所での検認(遺言書の内容を確認し、偽造・変造を防ぐ手続き)が必要になるため、検認の手続きが終わるまで遺産の分割に時間がかかるという欠点があります。
一方で公正証書遺言は、公証人手数料や必要書類の取得実費、証人の手配費用などのコストが発生するデメリットがあるものの、家庭裁判所の検認が不要です。
相続開始後に速やかに名義変更や預貯金の解約手続きへと進めるという大きなメリットがあります。

公正証書遺言の作成をおすすめしたい人の特徴
公正証書遺言の作成が特に推奨されるのは、以下のような状況に当てはまるケースです。
- 財産の中に都内の自宅や地方の土地など、分割しにくい不動産が含まれている場
- 相続人同士の関係があまり良くなく、死後の遺産争いが懸念される場合
- 内縁のパートナーや事実婚の配偶者、あるいは慈善団体など、法定相続人以外の人に特定の財産を遺贈(遺言で財産を贈ること)したい場合
- 自分が認知症などを発症する前に、確実な形で遺産分割の意思を公に遺しておきたい場合
- 相続人の中に認知症の人や未成年者がいる場合に、遺産分割協議が不要となるように遺言書を残したい場合
このように、自分の死後に家族に負担をかけたくないという方にとって、有力な選択肢となります。
公正証書遺言の作成にかかる費用相場
公正証書遺言を作成するにあたっては、公証役場へ支払う法定手数料のほかに、いくつかの実費や専門家への報酬が必要となります。
公証役場へ支払う公証人手数料の仕組みと計算例
公証人に支払う基本手数料は、公証人手数料令(政令)に基づき全国一律の基準で計算されます。
特徴的なのは、遺言に記載する財産の総額ではなく、財産を取得する人(相続人や受遺者(遺言で財産を受け取る人))ごとに、その人が取得する財産の金額に応じて手数料が算出され、それらを合算する点です。
令和7年(2025年)10月1日施行の基準によれば、目的の価額ごとの主な基準手数料は以下のようになっています。
| 金額 | 料金 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 200万円以下 | 7,000円 |
| 500万円以下 | 13,000円 |
| 1,000万円以下 | 20,000円 |
| 3,000万円以下 | 26,000円 |
| 5,000万円以下 | 33,000円 |
| 1億円以下 | 49,000円 |
これに加え、全体の財産額が1億円以下の場合は13,000円の遺言加算が発生するのが一般的です。
たとえば、総額5,000万円の財産のうち、4,000万円を長男に、1,000万円を長女にそれぞれ相続させる場合を想定します。
長男分の基準が33,000円、長女分の基準が20,000円となり、これらを合算した53,000円に遺言加算13,000円を加えた66,000円が基本的な作成手数料です。
そのほか、正本や謄本の交付費用などが数千円加わります。
立会人(証人2名)への日当・謝礼費用
公正証書遺言の作成には、必ず証人2名の立ち会いが必要となります。
信頼できる知人などに依頼する場合は、一般的に5,000円から2万円程度の謝礼を支払うのが相場です。
適切な人物が見当たらない、または遺言の内容を周囲に知られたくないという場合は、公証役場で紹介してもらうことが一般的です。
その場合の費用は、公証役場や地域によっても異なりますが、証人1人あたり10,000円程度の費用がかかります。
戸籍謄本や登記事項証明書など必要書類の取得実費
公正証書遺言の作成には、遺言者や相続人の身分を証明する書類が必要となります。
主な役所での発行手数料は以下のとおりです。
- 戸籍謄本:1通につき450円
- 住民票:1通につき300円
- 固定資産評価証明書:土地1筆につき300円、建物台帳1枚につき300円
- 登記事項証明書:1物件につき600円(オンライン申請の場合は480円〜500円)
これらの証明書の取得費用は、相続人の人数や不動産の数によっても変動しますが、合計でおおむね1,000円〜5,000円程度が実費となります。
専門家(税理士・司法書士・弁護士・行政書士)への依頼費用相場
遺言書の作成サポートや遺言執行の一連の手続きを専門家に依頼する場合は、各専門家の資格と依頼範囲によって費用が異なります。
| 専門家 | 合計相場 | 遺言書作成 | 遺言執行 | 強み・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 税理士 | 65万円〜 | 15万円〜 | 50万円〜 | 税務の専門家として、相続税の節税対策や相続税申告、納税資金の確保まで見据えた設計が強みです。 |
| 司法書士 | 60万円〜 | 20万円〜 | 40万円〜 | 不動産の相続登記など、法的な書類の作成と登記手続きを強みとします。 |
| 行政書士 | 60万円〜 | 20万円〜 | 40万円〜 | 行政書類の作成を主としますが、登記の代行や税務、紛争の解決交渉はできません。 |
| 弁護士 | 70万円〜 | 20万円〜 | 50万円〜 | 遺産をめぐる紛争が予想される場合の、法的な交渉や裁判手続きの代理が可能です。 |
なお、銀行や信託銀行の遺言信託サービスを利用する場合、初期費用、年間保管料、執行報酬の最低報酬額(75万円〜)を合わせて、合計で100万円以上がかかるのが主流です。
公正証書遺言の書き方と作成手順(5つのステップ)
公正証書遺言は、公証人とのやりとりを含め、次の5つのステップで作成します。
ステップ1:相続人と相続財産の洗い出し・特定
自分の相続人となる人物を確実に特定するため、戸籍謄本を取得して確認します。
それと同時に、所有するすべての財産を洗い出し、現預金・不動産・株式・有価証券・その他(生命保険や権利関係など)の4つのカテゴリーに分類して整理します。
不動産については、登記事項証明書や固定資産評価証明書を取得しておくことが重要です。
ステップ2:遺言の原案作成(誰にどの財産を遺すか決定)
誰に、どの財産を、どのように相続または遺贈させるかの原案を作成します。
遺言者は基本的に自由に相続内容を決めることができますが、法定相続人の遺留分を侵害しないように配慮すると、のちのトラブルを未然に防ぎやすくなります。
どのように分けると遺産をめぐる争いを防げるかを意識して原案を作成しましょう。
ステップ3:必要書類の収集と証人の手配
必要書類として、遺言者の印鑑証明書、遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本、相続人の住民票(本籍記載)、不動産の登記事項証明書、預貯金の通帳の写しなどを取り寄せます。
それと同時に、作成当日に立ち会う証人2名を確保が必要です。
自分で証人を用意する場合は、証人の名前、住所、生年月日、職業を記載したメモを用意します。
ステップ4:公証役場・公証人との事前打ち合わせと原案確定
公証役場に電話やメールで連絡し、予約を取って作成を依頼します。
次に、遺言内容のメモと収集した必要書類を公証人に提出します。
公証人が資料をもとに案を作成し、メールやファックスなどで届けてくれるので、内容を確認してください。
案が確定したら当日の作成日時を決め、手数料の金額もこの時点で確定します。
打ち合わせは1〜2回が平均的です。
ステップ5:公証役場での作成・口授と署名押印(出張作成にも対応)
作成当日は、遺言者と証人2名が公証役場に行きます。
遺言者が自らの意思を公証人に口頭で述べ(口授)、公証人が作成した書類を読み上げ、遺言者と証人が間違いがないかを確認した上で、全員で署名・実印での押印を行う流れです。
なお、遺言者の真意を確保するため、作成中は利害関係人(相続人など)が席を外すよう指導されますので、注意してください。
原本は公証役場で保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。
公正証書遺言を作成する際の重要チェックポイント
公正証書遺言は強い効力を持ちますが、内容の設計を誤ると、死後に家族がもめる原因になりかねません。
以下のポイントを押さえておきましょう。
遺留分を侵害しない分け方と遺留分侵害額請求の対策
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の取り分の割合のことです。
遺言者の兄弟姉妹以外の法定相続人には、法律上この遺留分があります。
相続人の構成によって割合が異なり、相続人が直系尊属(親など)のみの場合は遺産全体の3分の1、配偶者や子が含まれる場合は全体で2分の1が遺留分となります。
遺言で遺留分を侵害した分け方をした場合、遺留分を侵害された相続人が、多く財産を取得した人に対して、不足分を金銭で支払うよう求める「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
家族間のもめごとを防ぐためにも、遺留分を考慮した分け方をあらかじめ設計することが重要です。
証人になれない欠格事由(親族・推定相続人の除外)
公正証書遺言の作成には証人2名が必要ですが、法律上、欠格事由に該当する人は証人になることができません。
未成年者、推定相続人(相続が開始した場合に相続人となる予定の人)、受遺者、およびその配偶者や直系血族、公証人の配偶者や四親等内の親族などは証人になれません。
そのため、推定相続人や受遺者の家族は証人を頼めないことが多く、信頼できる専門家や公証役場の紹介を利用すると安心です。
遺言執行者の指定と付言事項の活用
遺言執行者とは、遺言者の死後、相続人の代わりに遺言の内容を実現する権限を持つ人です。
遺言執行者を指定しておくことで、預貯金の名義変更や不動産の登記手続きを、相続人全員の同意なしに速やかに進めることができます。
また、付言事項(ふげんじこう)を書き添え、なぜこのような分け方にしたのか、家族への感謝や意図を伝えることで、相続人の感情的なもめごとを防ぐ効果が期待できます。
作成後の原本保管と遺言の書き直し・取り消しルール
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。
紛失や改ざんのリスクが低く、手元の書類を紛失しても公証役場で再発行が可能です。
また、遺言は作成後でもいつでも書き直しや取り消しができます。
新しい遺言書が作成された場合、その内容が前の遺言と矛盾する部分は、新しい日付の遺言の内容が優先されます。
公正証書遺言の作成を税理士に相談すべき4つの理由
公正証書遺言の作成は、単に法律のルールを満たすだけではなく、税金対策や遺産分割による税負担の影響を考慮したものにすることが重要です。
そのため、税理士への相談がおすすめです。
公証人は税金対策や最適な遺産分割の相談には応じられない
公証人は、遺言の意思を法的に有効な公文書に作成するのが主な仕事です。
したがって、「この分け方にすると相続税がいくらになるか」「この土地をどちらが相続すると税務上の特例が適用できるか」といった、相続税の節税や税額計算に関する相談には応じられません。
税務の専門家である税理士に相談することで、これらの税務リスクを事前に把握しやすくなります。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を活かした分割案を提案できる
相続税には、配偶者に対する税額軽減や、小規模宅地等の特例があります。
これらの特例は、誰がその財産を相続するかが適用の可否に影響します。
税理士に相談することで、これらの特例を十分に活かし、税務面のメリットを考慮した分割案を提案してもらえます。
二次相続や納税資金の確保を考慮したバランスの良い遺言が作れるため
一次相続(たとえば配偶者が相続する)の税額軽減だけを考えると、将来配偶者が亡くなったときの二次相続で、残された子供たちに多額の相続税がかかることがあります。
税理士は二次相続まで見据えたシミュレーションを行い、相続人が納税に困らないよう、現預金の分け方や生命保険の活用などを含めたバランスの良い遺言作成をサポートします。
相続発生後の相続税申告・名義変更手続きまでワンストップで任せられるため
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。
遺言書の作成時から財産や家族の状況を把握している税理士に依頼しておけば、将来の相続発生時にも、預貯金の名義変更や相続税申告までスムーズかつワンストップで対応してもらうことができます。
家族の精神的・事務的な負担の軽減につながります。
公正証書遺言に関するよくある質問(Q&A)
公正証書遺言に関するよくあるご質問にお答えします。
高齢や病気で公証役場に出向けない場合はどうすればよい?
公証人に自宅や入院先の病院、介護施設などへ出張してもらうことが可能です。
その場合は、通常の遺言作成手数料に加え、公証人の日当や交通費の実費、また病床執務加算が発生しますが、体が不自由な場合でも安心して公正証書遺言を作成できます。
公正証書遺言と自筆証書遺言が両方出てきたらどちらが優先される?
法律上、公正証書だからという理由だけで自筆の遺言より優先されるということはありません。
遺言書が複数存在する場合、内容が矛盾する部分は日付が新しいものが優先されます。
たとえば、公正証書遺言を作成した後に、自筆で新しく要件を満たした遺言書を書き直した場合、新しい日付の自筆遺言書の内容が有効となります。
遺言書の内容は他の相続人に知られてしまう?
遺言者が生存している間、公証人や証人には法律上の守秘義務があるため、公証役場から他の親族などに内容が漏れることはありません。
生前に自分の意思で正本や謄本を見せない限り、秘密は守られます。
土地や不動産だけを特定の相続人に遺すことは可能?
可能です。
「自宅の土地と建物を長男に相続させる」といった特定の不動産を指定して遺すことができます。
しかし、不動産は分割しにくいため、他の相続人の遺留分を侵害していないか、また将来の相続税の納税資金が不足しないかについて、事前に税理士などの専門家に相談しておくことが安全です。
まとめ
公正証書遺言は、自分の遺産を確実な形で家族に引き継ぎ、死後の遺産争いを防ぐための、安全性の高い方法のひとつです。
作成費用や手続きの手間はかかりますが、相続税の特例や二次相続まで考慮した遺言書を作成することは、将来の家族への備えになります。
まずは相続に強い税理士などの専門家にご相談いただき、無駄な税負担を防ぎながら、家族みんなが安心できる最適な遺言の作成を進めていきましょう。

相続税に強い
税理士をご紹介します
- 身内が亡くなった、今すぐ相談したい
- 相続税申告について何も分からない
- 相続専門の税理士を紹介して欲しい
相続に関することであれば、どんなご相談でもお受けしています。
相談は無料です。繋がらないときはお時間をおいておかけ直しください。
私たちの想い
相続後に、
遺産をしっかり受け取り、安心して日々を過ごすことができるかどうか。
その鍵は、相続に強い税理士に出会えるかどうかが握っています。
例えば・・
- 申告に漏れがあれば、税務署から調査を受け追徴課税を支払う可能性がある
- 税理士が見つからず申告が間に合わなければ罰金を受けたり税金が高額になる
- 税理士が不親切であれば、よく分からないまま申告を行うことになる
など
実際に、
令和2年には、5,106件の税務調査が行われ、1件あたりなんと943万円の追徴課税が課されています。
相続に強い税理士がついていれば、まず税務調査に発展する可能性も低く、
追徴課税を受けるような抜けや漏れもないため、安心して相続税申告を終えることができます。
相続後の生活は、相続に強い、良い税理士に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないのです。
「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
「相続税のことで悩んだり、支払いに追われる様な方を1人でも多く減らしたい」
このサイトは、そんな想いで運営されています。


