
令和8年度税制改正大綱の閣議決定(令和7年12月26日)で、相続税における貸付用不動産の評価方法が大きく見直されることになりました。
これが実務上「相続税の5年ルール」と呼ばれる新たな規制です。
これまで不動産を活用した相続税対策は非常に有効な手段とされてきましたが、この改正によって駆け込みでの節税が厳しく制限されることになります。
この記事の監修/取材協力

古尾谷 裕昭 税理士
相続専門の税理士法人(VSG相続税理士法人)の代表税理士。同事務所では、年間3,500件の相続税申告を行っており「99%税務調査が入ってこない」「税金を可能な限り安く」「親身に寄りそった対応」という品質で、元国税調査官を招き入れた体制のもとサービスを提供している。

三ツ本 純 税理士
相続専門の税理士(VSG相続税理士法人)。税理士業界に就職した後、10年以上相続税の専門税理士として活動、これまで600件以上の相続税申告に関わっている。横浜出身。書籍「令和3年度版 プロが教える! 失敗しない相続・贈与のすべて (COSMIC MOOK)」など
【2027年施行】相続税の5年ルールとは?令和8年度税制改正のポイント
令和8年度税制改正において、注目を集めているのが貸付用不動産の評価方法の見直しです。
この改正は、これまでの不動産を活用した節税方法に影響を与えます。
具体的な変更点とその背景についてご紹介します。
相続税の5年ルールとは
相続税の5年ルールとは、相続・遺贈または生前贈与によって取得した貸付用不動産(賃貸マンションやアパートなど)のうち、取得または新築してから5年以内の物件について、その評価額を従来の路線価ベースではなく、通常の取引価額(時価)を基準に評価する仕組みです。
令和9年(2027年)1月1日以降の相続や贈与から適用が開始されます。
貸付不動産の評価見直しの背景
政府がこのような評価方法の見直しに踏み切った背景には、相続税の課税対象となる財産を現金から不動産に換えるだけで、納税額が極端に抑えられる現状への問題意識があります。
不動産の相続税評価額は、市場での実際の取引価格(時価)よりも著しく低く算出される傾向があり、これを利用した過度な節税行為が横行していました。
すでにタワーマンションの評価方法については2024年に算定ルールが改正されましたが、タワマンだけでなく、一般的なアパートや一棟賃貸マンション、区分所有の投資用マンション全体における評価の乖離についても公平性の観点から是正すべきと判断したのです。
改正前との違い
今回の改正によって、購入から間もない不動産の評価額は高くなります。
具体的にどのように変わるのか、改正前と改正後の基準を対比してみてみましょう。
改正前|路線価・固定資産税評価額を基にした評価
改正前は、取得時期に関わらず、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースに評価されます。
さらに、第三者に賃貸している場合は貸家建付地評価や貸家評価が適用され、それぞれの評価額からさらに3割〜5割程度の評価減を受けることが可能です。
このため、購入直後であっても時価を大幅に下回る評価額となります。
改正後|通常の取引価額(時価)での評価が原則に
改正後は、取得から5年以内に相続等が発生した場合、これまでの路線価ベースでの評価は認められず、通常の取引価額(時価)で評価することが原則とされます。
ただし、実務上の評価負担に配慮し、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%を評価額とすることが認められています。
結果として、購入直後の物件は一律で時価の約80%の評価額となり、従来の大幅な節税効果は見込めません。
適用開始はいつから?
この5年ルールは、令和9年(2027年)1月1日以降に相続、遺贈、または贈与により取得する財産の評価に適用されます。
また、経過措置として、この改正を通達に定める日(現在未定)までに、被相続人がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む)には適用しないとされています。
【ケース別】5年ルールの適用範囲
5年ルールはすべての不動産に一律に適用されるわけではありません。
どの物件が対象になり、何が除外されるのかを把握することが大切です。
対象となる不動産
新ルールの対象となるのは、対価を伴って取得または新築された貸付用不動産です。
これには以下のような物件が広く含まれます。
- 一棟売りの賃貸マンション・アパート
- 区分所有の投資用ファミリーマンション・ワンルームマンション
- 賃貸に供している店舗やオフィス、テナントビル
- 貸倉庫や貸土地
個人で賃貸経営を行っている物件だけでなく、親から子へ引き継ぐ予定の投資用不動産も含まれます。
対象外となる不動産
今回の改正で適用対象外(従来通りの評価方法)となるのは、以下のようなケースです。
- 取得または新築から5年を超えて所有されている貸付用不動産
- ご自身やご家族が居住している「自宅(自用建物・自用宅地)」
- 通達に定める日までに、被相続人がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした貸付用家屋、または同日において建築中の貸付用家屋
長期保有の物件や実家などの居住用不動産には影響しません。
5年の起算点
5年以内かどうかの判定基準は、被相続人がその不動産を取得・新築した日から相続開始(被相続人の死亡日)または贈与の日までの期間で計算します。
この期間が5年以下であれば新ルールが適用され、5年超であれば従来通りの路線価ベースの評価が維持されます。

【要注意】不動産小口化商品・信託受益権の場合
不動産小口化商品とは、都心の一等地にある優良なオフィスビルや商業ビルなどを一口100万円や500万円といった単位に分割し、複数の投資家で共同所有することです。
現行税制では、現物の賃貸不動産を保有しているのと同じ方法で相続税評価額を路線価ベースに抑えられるため、富裕層や高齢の資産家の間で節税対策として多用されてきました。
今回の税制改正大綱で、これらの不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る一定のものについては、取得の時期に関わらず、原則として通常の取引価額(時価)によって評価する」と定められました。
現物不動産のように5年を超えれば従来評価に戻るという救済措置がなく、保有期間が10年であっても20年であっても、常に実勢価格をベースにした評価が求められることになります。
評価に際しては、事業者が出資者に対して示している処分価格・買取価格や、売買実例価額、定期報告書に記載された価格などを参考にして計算されます。
これらの情報がない極めて例外的な場合に限り、取得価額等の80%評価が補完的に適用されますが、基本的には全件が時価ベースで評価されるため、これまでの高い節税メリットは得られなくなります。
5年ルールの影響|相続税額シミュレーション
実際に5年ルールが適用されるとどのくらい評価額に影響がでるのかをシュミレーションでご紹介します。
事例:3年前に1億円で購入した投資用マンションを相続する場合
被相続人(父)が、相続開始の3年前に現金1億円で都内の投資用ワンルームマンション(区分所有)を購入し、第三者に賃貸していたと仮定します。
相続人は子1人で、この相続人の適用される相続税率を40%とします。
改正前の評価額と相続税額
改正前は路線価や固定資産税評価額をもとに評価します。
都心の区分マンションであれば、時価1億円の物件でも相続税評価額(通達評価額)は約4,000万円程度まで低くなることもあります。
さらに賃貸しているため、貸家建付地や貸家の評価減(約30%減)が適用されますがここでは計算をシンプルにするため、賃貸用不動産としての評価額が約4,000万円と仮定します。
- 物件の評価額:4,000万円
- 適用税率:40%
- この不動産にかかる相続税額:1,600万円(4,000万円 × 40%)
現金1億円のまま相続させた場合の税額4,000万円(1億円×40%)と比較すると、2,400万円もの税金が節税できます。
改正後の評価額と相続税額
取得から3年しか経過していないため、新ルールの適用対象となります。
地価の大幅な変動がない場合、通常の取引価額(1億円)の80%での評価が適用されます。
- 物件の評価額:8,000万円(1億円 × 80%)
- 適用税率:40%
- この不動産にかかる相続税額:3,200万円(8,000万円 × 40%)
税負担はいくら増える?影響額の比較
改正前後の結果を比較すると、以下のようになります。
- 改正前の相続税額:1,600万円
- 改正後の相続税額:3,200万円
- 増税額(影響額):+1,600万円
このように、同じ1億円の投資用マンションを相続する場合であっても、取得から5年以内に相続が発生するだけで、支払う税金が実質的に2倍に跳ね上がってしまうことになります。
相続対策として投資用不動産を所持する場合、計画が大きく変わるため、注意が必要です。
5年ルールと他の特例の関係性
相続税には様々な評価減の特例が存在します。
今回の5年ルールの導入により、これらの特例の適用や効果にも変化が生じます。
小規模宅地等の特例は使えるのか?
小規模宅地等の特例のうち、貸付事業用宅地等(50%減額、限度面積200平米)については、要件を満たしていれば5年ルール適用物件であっても併用自体は可能です。
ただし、そもそもベースとなる土地の価格が時価の80%まで引き上げられているため、特例を適用して半分に減額したとしても、改正前より課税価格は大幅に高くなります。
また、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地は特例の対象から除外されるという3年縛りのルールもあるため、実務上の適用要件は複雑です。
貸家建付地評価・貸家評価への影響
5年ルールの適用対象となる物件については、時価の80%という水準が優先されるため、従来の貸家建付地としての評価額を抑える方法は通用しなくなります。
5年ルールへの対策法
令和9年からの施行に向けて、今からできる対策は限られています。
早めに現状を把握し、適切な対応を取ることで増税のリスクを抑えましょう。
対策1:現状把握をする
ご家族で保持している不動産をすべて把握することから始めてください。
保持している不動産について、下記3点の確認が必要です。
- 取得した日・新築した日(5年経過しているか)
- 購入時の価格(売買契約書に記載された金額)
- 現在の市場での取引価格(実勢価格の査定)
特に2022年以降に土地・建物ともに購入した物件は、令和9年以降の相続において5年ルールが適用される可能性が高いです。
対策2:「駆け込み贈与」は有効?令和8年中の生前贈与のメリット・注意点
新ルールが施行されるのは令和9年(2027年)1月1日です。
そのため、令和8年(2026年)12月31日までに贈与手続きを完了させることができれば、現行の低い路線価ベースの評価額で子や孫に資産を渡すことができます。
いわゆる「駆け込み贈与」です。
しかし、生前贈与を行う際には贈与税が発生するほか、登記費用(登録免許税)や不動産取得税などの費用が別途かかります。贈与税は高額になりがちです。
また、生前贈与を行った後、一定期間内(段階的に7年へ延長中)に相続が発生した場合、相続財産への持ち戻し(生前贈与加算)の対象となるため、被相続人の年齢や健康状態を踏まえ、税理士などの専門家との相談をおすすめします。
対策3:資産の「組み換え」
5年ルールの影響を大きく受ける可能性のある物件を売却し、他の資産へ変更も検討できます。
生命保険の非課税枠(500万円 × 法定相続人数)を最大限に活用するなど、不動産だけに偏らないようにする工夫が必要です。
対策4:増加する税額に備える!納税資金の準備
新ルールの適用によって、相続税額が数千万円単位で増加するケースも予想されます。
不動産は現金と違ってすぐに納税に充てることが難しいため、あらかじめ納税資金としての現金を確保しておく必要があります。
生命保険に加入して死亡保険金を納税資金に充てることや、相続発生後に速やかに不動産を売却できる体制を整えておくなど、事前準備が必要です。
5年ルールに関するよくある質問5選
5年ルールについて、特によく寄せられる疑問や不安に感じるポイントをQ&A形式でまとめました。
2025年に購入したアパートがあるのですが、これも対象になりますか?
対象になります。
新ルールの適用開始である2027年1月1日以降に相続が開始された場合、その購入日(2025年)から相続開始日までの期間が「5年以内」であれば、新ルールに則って通常の取引価額(時価)またはその80%で評価されることになります。
過去に買ったから大丈夫とは言えないため、注意が必要です。
相続が発生した後に、5年ルールを回避する方法はありますか?
回避することはほぼ不可能です。
相続が発生した後の10ヶ月(申告期限)の間では、すでに不動産の所有期間や所有者は確定しているため、この時点での節税対策は難しいです。
節税対策は必ず生前に行う必要があります。
5年ルールを避けるために家族が経営する法人に不動産を売却するのは有効ですか?
法人の株式評価を行う際にも、会社が保有する資産の評価において同様に5年ルールが適用されると予想されるため、検討が必要です。
また、法人へ物件を移転する際、不動産取得税や登録免許税、譲渡所得税などの費用が発生します。
まとめ
相続税の5年ルール導入により、取得から5年以内の貸付用不動産は一律で時価の80%評価となり、これまでの投資用不動産を活用した短期的な節税対策ができなくなります。
また、小口化商品に関しては原則、時価評価という厳しい変更が予定されています。
相続税の節税対策のために投資用不動産や小口化商品を購入した方は、不動産以外の財産の変更やその他の節税対策を検討してください。

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「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
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